日本の中小企業の特長のひとつに「同族会社が多い」という点が挙げられます。国税庁の会社標本調査(2019年度)によると、日本企業全体における同族会社 (単体法人) の割合は 96.3% (264万2,660社)で、そのうち資本金1億円以下の中小企業では95%超という結果が出ています。
筆者が所属する中小企業も、もれなく同族企業です。役員を占めるのは全て社長一族であり、社長の上には、創業者である社長父(会長)とその奥さん(役員)が位置しています。
同族中小企業あるある – 経理は社長の奥さん
中小企業あるあるとして「経理担当は社長の奥さん」というのがあります。お金の管理を行うので身内のほうが安心でしょうし、節税対策も兼ねているようです。
筆者の所属する中小企業では、創業時には創業者の奥さんが経理を担当、現在は創業者の息子が社長を引き継ぎ、その奥さんが経理を引き継ぐ、という流れをとっています。
しかし、嫁である現社長の奥さんからすると、義理母が上司というのはなかなか気を使いそうです。創業者夫妻はどちらも齢80超。まだまだ達者とは言え、年齢ゆえの頑固さやペースの違いゆえに行き違いが起こることもあるようです。
奥さんが経理業務を引き継いだとき、業務は全てアナログ仕様。毎月膨大な時間をかけて帳簿の各項目を手書きし、金額を電卓で手計算していたそうです。
早いところ財務会計システムを入れて、無駄な業務を削ればいいのに、とも思いますが、高齢の方にとってパソコンは「よく分かないもの」。なかなか一筋縄ではいかないのです。
財務会計システムの導入でネックとなったこと
企業規模が大きくなるにつれ、身内だけで業務をまわすことが困難になりました。そこで行われたのが、財務会計システムの導入検討と経理部門の増員です。
財務会計システムの導入においてネックとなったのは、パソコン操作。先代経理は「パソコンは難しいから」触れようとしませんし、奥さんもそこまで得意とは言えない状態です。
一方同じ頃、経理部に20代の女性が入りました。彼女は、義務教育の頃からパソコンが当たり前にある世代で、紙ベースの作業を、Excelにより少しずつデジタル化していきます。
Excelによるデジタル化は、ある程度の業務効率化をもたらしました。と同時に、Excelは財務会計システム導入の機運を遠ざけました。中小企業の経理業務であれば、デイリーの経理処理であれば手入力による力技で何とかなるからです。
こうして、結局のところこの会社では、Excelと紙の混合という中小企業にありがちなスタイルに落ち着きます。
条件が重なり、ついに財務会計システム導入
しかし、Excelはけして万能ではありません。勘定項目の入力や数字を合わせる作業は結局手作業ですし、1箇所でもミスがあれば、関連する全てのシートを開いて1つ1つする必要があります。
パソコンの力でアナログ作業は削減されたものの、けして楽になったとはいえない状態でした。
このような状況に一石を投じたのは、奥さんの夫である現社長です。現社長は事業を一から立ち上げて中小企業にまで育て上げた父の背中を見て育った男であり、無用な長時間労働を是としない価値観の持ち主でもあります。
次第に実質的な経営権を手に入れた現社長は、ついに財務会計システムの導入を進めます。
この頃の財務会計システムは、自動明細取り込み・仕訳機能が一般化し、経理業務にかける時間を大幅に短縮できるようになりました。経理業務全体が簡素化されたのです。
導入されたシステムの効果は絶大でした。これまで半日かかっていた預金明細の入力が、自動取り込みにより30分ほどに短縮されたのです。これまで、手入力で作成していた売上レポートもボタン1つ。これには20代の経理員も思わず「今までやっていた作業って何だったんでしょうね」とこぼしていました。
財務会計システムは中小企業の救世主
現在、経理業務をまわしているのは社長の奥さんと20代の女性経理員の2名です。
今なお財務会計システムを全く導入せずに頑張っている中小企業の経理員さんに筆者は声を大にして言いたいです。
これだけ便利なITツールが豊富に揃っている今、アナログな手入力作業に時間を割くのは勿体ないことです。経理作業の真の目的は、経理データを分析し、いかに収益力を高めるか、コストを削減化するか、その判断材料を提供すること。記帳業務ばかりに労力をかけていては、経理業務の本質が損なわれてしまいます。